2010年6月29日

九響定期300回

九響定期300回を記念して、先週、毎日新聞に記事が載った。
「演奏の特色」「九響存在の意義」「今後の課題」などについて、どう考えるか、事前インタビューがあり、その回答内容が「栗原詩子さんの談話」として引用された。
ここ数年、管楽器の演奏力が上がったこと、九響の存在は九州の音楽文化に欠かすことができない旨など、私が申し上げたことを引用してくださっている。

が、
私はそれだけを伝えたのではござらぬ。
課題についてもお伝えしたのである。

おそらく新聞では、その公共性の高さから、地元唯一のプロ集団の存在意義を考慮し、しかも定期300回記念のお祝い的記事であることを考慮し、「課題」を書くわけにはいかなかったのであろう。「課題」とは「がんばりましょう」ポイントの指摘であり、それは現状のマイナス面を指摘することになるから。

しかし、ブログならば自身の責任で書ける。
手元にテキストがあり、よい機会なので、ここにメモっておこうと思う。

◯演奏の特色・・・以前は、弦楽器群だけに魅力を感じており、そのようになるのは練習場所である末永文化センターホールの音響特質からかと思っていたが、5年ほど前に首席奏者制度を取り入れた時期以降、金管・木管群の技術があがってきた。優れた演奏者の入団がその他の演奏者の技術まで牽引しているように思えるほどである。とくに2管編成の響きが充実して、モーツァルトやウェーバーの木管ソロを楽しめるし、3管編成の作品でココぞというポイントに金管が正確に鳴るのは、それだけで本当に喜ばしい。

◯九響存在の意義・・・音楽大学がないために職業音楽家が住みつきにくい九州にあって、「自宅レッスン」でなく「ステージ演奏」の質を日々問う生業の人口を一定数確保することができているのは九響が存在するおかげである。九響団員としてのステージもさることながら、彼らが、自主的に開催するリサイタルがなければ、外からの演奏家に頼ることでしか「プロらしい演奏」を聞く機会を確保できなかっただろう。表現者(演奏者)と鑑賞者(聴衆)の相互の長期的な成長をうながす上で、九響の存在は九州の音楽文化に欠かすことができない。

◯今後の課題・・・九響のホームページは、プロ集団の活動を支える品質に達していない。体裁(レイアウト)をみなおすことで情報整理を進めるのはもちろん、当日冊子の抜粋や、演奏者紹介・チケットプレゼント・協賛募集などの新たな情報の掲載に期待する。

◯今後の課題・・・定期演奏会のタイトル以下2件については改善を懇請する。まず、4~5月の「メジャーへのステップ」は、演奏曲目の説明にはなっておらず、おそらく楽団運営のスローガンにあたるものと思われる。しかし「まだメジャーでない」ということを言表するような自虐的なタイトルは、音楽会にでかける楽しさに水をさすことはあっても、その気分を盛り上げることに貢献しない。次に、10月に19世紀東欧の“国民楽派”を扱った演奏会に「民族音楽の世界」というタイトルがあるが、90年代以降「民族音楽」という語彙自体が西欧中心主義の現れであるとの反省から「ワールドミュージック」なる語彙が生まれている状況をみれば、非中央ヨーロッパの曲目を「民族音楽」と呼ぶのは不見識。

◯その他・・・当日冊子の曲目解説に「楽しみだ!」「乞うご期待!」調の売り込み口調が多く、「解説」というより「プレスリリース」として書かれたものではないかと思うことがしばしばある。

3 件のコメント:

  1. 書かれていることに大賛成です。
    「メジャーへのステップ」は外部に向けて言うことではなくて,内部での覚悟のようなもので,なんのためにそのようなことを宣言するのか意味不明です。地元の人間にすれば,自分たちのオーケストラがメジャーではないと宣言されたようなもので気分のよいものではなりません。嘘でもメジャーだと言ってほしいものです。「ウチの味はまだ美味しくありません」と宣言するレストランには客は来ません。
    また「民族音楽の世界」は間違った用語法によるネーミングで,まことに恥ずかしい。クラシックに造詣ある人はこれで行く気がかなり削がれます。国民楽派との混同です。
    おかしいことをおかしいと指摘する人が九響の中にいないのでしょうか。

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  2. 栗原さんのおっしゃること,S.N.氏のおっしゃること,その通りであります。
    表面的なことは,すみやかに改善を望むところです。
    一方,問題点が隠されてしまったこと・・・これは・・・(S.N.氏の文章も拝読しました)難しい問題ですね。
    かつてない厳しい情勢から,九響さんとしても,今はそこになるべく触れないでほしい,ということなのだと推察します。
    でも,悪いことは悪いと言わないと気づかないこともあるし,それなしでの成長は望めません。
    この問題については,私もいずれ考えてみたいと思います。

    が,他の方が何と言われようと,お二人には,建設的なご意見を堂々と開示していただきたいです。私を含め,ほかの人間にはなかなか言えないことも多々あると思いますので。

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  3. S.N.さん、EUGENEさん、激励ありがとうございます。
    九響のさらなる進展に期待して、真摯に、意見をのべていきたいと思います!

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